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名古屋高等裁判所 昭和51年(ネ)23号 判決

控訴人

山田伝三

右訴訟代理人

青木俊二

外一名

被控訴人

山田陶器合資会社

右代表者

山本朔夫

被控訴人

山田富雄

山田利男

右山田富雄山田利男

両名訴訟代理人弁護士

大橋茂美

外一名

主文

原判決中被控訴人山田陶器合資会社に関する部分を取消す。

控訴人の被控訴人山田陶器合資会社に対する訴を却下する。

控訴人のその余の被控訴人に対する控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一控訴人は本訴において合資会社の社員の残余財産分配請求権を被保全債権として、債務者(被控訴会社)と受益者(被控訴人山田ら)を被告として、被控訴会社と被控訴人山田ら間の昭和四三年六月一〇日付の本件建物についての売買契約の取消を請求していることは、控訴人の請求の趣旨に照して明白である。

しかして詐害行為取消権は、詐害行為を取り消し、かつ逸出した財産の取戻を請求する債権者の権利であるが、詐害行為の取消は、債権者が相手方から詐害行為の目的たる財産またはこれに代るべき、利益の返還を請求するために必要なかぎりにおいて、債権者に対する関係においてだけ詐害行為の効力を否認するもの(相対的取消)であるから、被告とすべきものは受益者又は転得者だけであつて債務者は被告適格を有しないものである。

したがつて、控訴人の本訴請求中債務者である被控訴会社に対する訴は被告適格を有しない者に対する訴であつて、その余の点について判断するまでもなく、不適法として却下すべきものであり、これについて本案判決をした原判決は取消を免れない。

二被告会社は名古屋地方裁判所の解散命令によつて昭和四一年三月二四日解散し、弁護士山本朔夫が清算人に選任されたのであるが、同清算人は被告会社を代表して昭和四三年六月一〇日付をもつて被告会社所有にかかる本件建物を被控訴人ら両名に対し代金六一万三二〇〇円で売渡した。

以上の事実は当事者間に争いないところ、控訴人は、右売買は控訴人の出資社員として被告会社に対して有する残余財産分配請求権を害することを知つてなされたもので、民法第四二四条により取消されるべきであるという。よつて、次項においてこの点の判断をする。

三詐害行為取消の制度は、債務者の一般財産を保全するために、これを不当に減少させる債務者の行為の効力を否認して、債務者の一般財産から逸出したものを一般財産に取り戻すことを目的とした制度である。

したがつて、詐害行為取消権は会社債権者の有する債権の効力として認められるものであるところ、合資会社における残余財産の分配とは、会社が解散し、会社債務を完済した後に残余する積極財産を営利法人としての本質に基づく会社内部の処理として社員に分配するものであり、社員の残余財産の分配を受け得べき権利は詐害行為取消制度の予定する債権とは本質を異にするものである。それ故、残余財産分配請求権の効力として民法四二四条による詐害行為取消権の行使を認むべきではないのであるが、会社債務を完済した後において積極財産の残存するに至つた段階に至つたときは、残余財産から逸出させる会社の行為は、民法四二四条を類推して社員の有する残余財産分配請求権の効力として取消すことが許されると解する余地がある。

しかしながら、本件において、前記売買当時、会社として争えない弁済すべき債務のあつたことは、〈証拠〉を総合すれば明らかであるから、控訴人主張の残余財産分配請求権をもつて右売買を取消すことはできないとしなければならない。

控訴人はこの点に関し、残余財産分配請求権は会社債務の完済せられる以前においても、会社の資産状況に照して負債整理をしてもなお積極財産の残存が見込まれるときは具体的権利として発生し、ただその数額が確定されないだけであるというのであるが、会社清算人の義務として、争いのある債権を留保する場合以外会社債務を完済しなければ残余財産の分配をすることはできないのであるから、社員としても、会社債務残存する限り会社に対し残余財産の分配を求める権利は未だ具体的に発生しているとはいえないのである。本件において被控訴会社として争えない債務のあつたことは前記認定のとおりであつて、控訴人の右主張は採用できない。

四してみれば控訴人の被控訴人山田らに対する本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないことに帰着するから、被控訴人山田らに対する本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、被控訴人山田らに対する本件控訴は理由がなく棄却すべきである。

よつて控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(綿引末男 高橋爽一郎 福田晧一)

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